12月2日開催された懇談会と学食の試食会にて、動物科学科の 小澤 壯行先生が保護者の方に「飼料用米およびエコフィード利用に関するアンケートおよび豚肉の食味試験」というのタイトルの実験をされていました。小澤先生より実験結果のご報告を頂きましたので、こちらに掲載させていただきます。
「コメを食べた豚肉は美味しいのか?」
私たち動物科学科システム経営学教室では、動物産業に関わる全ての業態を対象として、その生産・消費システムの解明に傾注しています。このたび本学後援会から卒論研究に係る貴重な機会を提供していただき、研究の一助といたしましたのでこの場をお借りしてご報告申し上げます。
さて日本人の主食である米。ご存じのとおりその消費量は減退の一途をたどっています。一方で稲作は日本の風土に最も適した農業であるとされており、水田による地域環境保全や雇用確保の面でも欠かすことができません。米の需要減少が続くなかで、近年注目されているのが飼料用米です。これは家畜の飼料に用いられる専用の品種であり、作付面積は国の助成措置もあって右肩上がりに伸びています。飼料用米を給与して生産されている畜産物は全国34道県、83ものブランドで活用されていますのでお気づきになった方は少なくないでしょう。とりわけ飼料用米を給与飼料の一部(約3割)として与えている豚肉は、生活協同組合やネット、専門店等を経由して販売されている商品です。それでは果たして飼料用米を与えている豚肉は一般の豚肉と比べて美味しいのでしょうか?また飼料用米給与豚肉の市販価格について消費者はどのように捉えているのでしょうか。実はこの点に関するわが国の先行研究は存在しません。つまり「お米を食べている豚肉は美味しい」かどうかは明らかになっていないのです。私たちはこの点に着目しました。
昨年12月2日に初めて後援会主催の大学交流会が開催されました。お昼の時間には学生食堂「むらさき」において、本学生活協同組合が提供しているランチを試食する機会が設けられました。多くの保護者が集うこの機会に、「飼料用米を給与した豚肉ロース(A肉)」と「一般配合飼料を給与した同部位(B肉)」を食べ比べて頂いて評価を頂くこととしました。供試した飼料用給与豚肉は山形県酒田市に本社をおく(株)平田牧場で生産されました。もう一つの穀物飼料で育った豚肉は静岡県富士宮市(株)YSCの肉です。いずれの肉も「金華豚」という著名な品種で、一般には高級豚肉として位置付けられています。当日は144名の多くの皆さまにご協力をいただきました。その内訳は女性101名(76%)と圧倒的に多数であり、年齢も40代と50代で全体の87%を占めていることから、「都内の私立動物系大学に子弟を通わせている婦人層」であることが明確です。すなわち家計を担う主婦層にご回答いただいたことは、研究のサンプル(失礼!)としては大変意義深いものがあります。
AとBの両方の豚肉はそれぞれ別の鍋で90℃の熱湯に10秒間浸し加熱しました。その後、味付けをしないで5gごとに切り分けました。被験者の皆さまには、AとBの肉、自由な順序で召し上がって頂き、一つの肉を食べ終わったらミネラルウォーターで口中をすすぎ、続いて二つ目の肉を召し上がって頂きました。食べ終わった時点で、①食味、②食感、③香り、④脂肪の甘み、⑤後味ならびに⑥総合評価を5段階基準(標準を0点とする)にて評価してもらいました。同時にこれらの豚肉が「100gあたりいくらで市販されているか」についても予想していただきました。
さて結果です。①~⑥すべての評価項目において、飼料用米を給与した豚肉とそうでない一般の豚肉との間に、統計的な有意差は認められませんでした。つまり「味に違いが無い」ことが明らかになったのです。また予想市販平均価格についても飼料用米給与豚肉185円(696円)、一般豚肉181円(433円)と違いがほとんど生じていませんでした。( )内の数値が実際の市販価格です。どうやら随分と安く評価されてしまっています。
飼料用米を給与した豚肉と一般配合飼料を給与した豚肉との間では、食味に関して差異は無く、また予想市販価格においても同様でした。この結果は、豚に飼料用米を給与しても食味において消費者の購買行動には影響しないことを意味しています。付言するのならば「コメを餌として与えた豚肉は、一般の豚肉よりも美味しいからすすんで買ってみよう」との行動には結びつかないことが示唆されたのです。むしろ豚に飼料用米を与えるという生産者の「ストーリー」が、消費者を飼料用米給与豚肉への購買行動へと走らせたのではないでしょうか。実際、平田牧場のホームページには「平田牧場の豚肉は全豚がこめ育ち豚となっています。日本の農業を活性化させ、高品質の豚肉を作る飼料用米プロジェクト。食を育む挑戦は、これからも続いていきます」との記述(ストーリー)が消費者の共感を得ているのでしょう。
本調査ではこの他に、お集り頂いた皆さまの畜産物の購入基準、穀物飼料輸入依存に対する認知度、コメを飼料にすることへの賛否、飼料用米給与畜産物への関心および食品産業から排出される残渣を飼料として利用することへの是非についても貴重なデータが得られています。これらについても機会を見て公表させて頂きたいと存じます。またコロナ禍により各種制限から解放され、関連する学会や研究会も対面形式で開催されるようになりました。後援会の皆さまのご協力から得られた結果は、学術研究の場においても積極的に公表し、日本獣医生命科学大学の社会的評価を得るために努力する所存です。
このたびは種々のご協力、本当にありがとうございました。これからも本学の教育研究のためにお力添えを賜りたいと心よりお願い申し上げます。
動物科学科 システム経営学教室
教授 小澤 壯行
教授 長田 雅宏